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名古屋地方裁判所 平成9年(ワ)331号 判決

原告 旭日産業株式会社

右代表者代表取締役 高橋育宏

右訴訟代理人弁護士 南舘欣也

同 北川ひろみ

被告 小川郁朗

右訴訟代理人弁護士 都築眞

被告 村上正一

右訴訟代理人弁護士 片山主水

同 中山敬規

主文

一  被告らは、原告に対し、各自一三八〇万円及びこれに対する平成四年九月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二〇分し、その一七を原告の負担とし、その余は被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自一億〇四一〇万円及びこれに対する平成四年九月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  (当事者)

被告らは、名古屋法務局昭和出張所管内で司法書士を業として営んでいる者である。

2  (一回目の融資の経緯)

(一) 原告は、平成四年九月二日、阪野辰男と称する者(以下「自称辰男」という。)から、阪野辰男(以下「辰男」という。)の所有する別紙物件目録一記載の土地(以下「笹原町土地」という。)及び同目録二記載の建物(以下「笹原町建物」といい、笹原町土地と併せ、「笹原町物件」という。)を担保に融資してほしい旨の依頼を受け、原告の代理人である阿部宗明(以下「阿部」という。)が笹原町物件を査定した結果、自称辰男に対し二〇〇〇万円を融資することとしたが、その方法としては、自称辰男が原告に対して笹原町物件を代金二〇〇〇万円で売却する形式で貸し付け、代金三〇〇〇万円で買い戻す形式で返済を受ける方法を採る旨合意した。

(二) 原告は、同日、笹原町物件について、辰男を登記義務者、原告を登記権利者とする所有権移転登記手続をすることとし、阿部を代理人として、被告小川郁朗(以下「被告小川」という。)に対し右登記申請手続を委任し、笹原町物件につき、それぞれ同日付け売買を原因とする名古屋法務局昭和出張所同月九日受付第三二二七二号所有権移転登記(以下「笹原町土地登記」、「笹原町建物登記」といい、併せて「笹原町物件登記」という。)を経由した。

(三) 原告は、同月二日、自称辰男に対し、貸主を原告、借主を辰男、利息月三分、期間を短期間との約定で貸し付ける旨の合意に基づき、二〇〇〇万円を交付した。

3  (二回目の融資の経緯)

(一) 原告は、平成四年九月八日、再度、自称辰男から融資の依頼を受け、辰男の所有する別紙物件目録三記載の土地(以下「保呂町土地」という。)を担保として一億円を融資することとし、阿部を代理人として、自称辰男との間において、根抵当権者を原告、債務者を辰男、極度額を一億二〇〇〇万円、債権の範囲を証書貸付取引とする根抵当権設定契約をした。

(二) 原告は、同日、保呂町土地について、右根抵当権設定登記手続をすることとし、阿部を代理人として、被告小川に対し、右登記申請手続を委任し、保呂町土地につき、名古屋法務局昭和出張所同月一四日受付第三二八七一号根抵当権設定登記(以下、「笹原町物件登記」と併せ「本件各登記」といい、「笹原町土地登記」と併せ「本件各土地登記」という。)を経由した。

(三) 原告は、同月八日、自称辰男に対し、貸主を原告、借主を辰男、利息月三分、期間を短期間との約定で貸し付ける旨の合意に基づき、一億円を交付した(以下、前記2(三)の貸付けと併せて「本件融資」という。)。

4  (保証書の作成)

原告は、自称辰男が笹原町土地及び保呂町土地のいずれについても登記済証を喪失したとのことであったため、右登記済証の代わりに不動産登記法四四条所定の保証書によって、本件各土地登記手続をすることとし、これらを被告小川に委任するに際し、阿部を代理人として、被告小川に対し、被告小川の事務所に阿部とともに来所して登記義務者として右各登記手続を申請した自称辰男と登記簿上の権利名義人である辰男とが同一人であることを保証する旨の保証書の作成を依頼した。

被告小川は、これを引き受け、自ら平成四年九月七日付け及び同月一四日付けで自称辰男が登記義務者として人違いでない旨の各保証書を作成するとともに、被告村上正一(以下「被告村上」という。)にも右各保証書を作成させ、これらを用い、本件各土地登記の申請手続を行った。

5  (自称辰男が清であったことの発覚)

(一) ところが、その後、本件各登記は、辰男の弟である阪野清(以下「清」という。)が大石信子(以下「大石」という。)らと共謀して、辰男になりすまし、辰男の実印を偽造するなどし自称辰男として同人の氏名を冒用してしたことが判明した。

(二) そして、辰男から原告に対し、本件各登記が自己の意思によらずにされたものであることを理由として、その抹消登記手続請求訴訟が名古屋地方裁判所に提起され(同裁判所平成六年(ワ)第一七〇〇号事件)、平成八年一二月二日、辰男と原告との間で、原告が解決金一五〇万円を受け取るのと引換えに本件各登記を抹消する旨の和解が成立し、同月六日、本件各登記はいずれも抹消された。

6  (原告の損害)

清には全く資力がないため、本件融資に係る貸付金合計一億二〇〇〇万円から金利分一四四〇万円(本件融資に際しては、貸付金合計一億二〇〇〇万円に対する月三分の割合による利息四か月分の合計金一四四〇万円が差し引かれた。)及び解決金一五〇万円を差し引いた残金一億〇四一〇万円は、回収不能となった。

7  (被告らの責任)

(一) 被告小川は、原告から登記義務者として登記手続を申請した自称辰男と登記簿上の権利名義人である辰男とが同一人であることを保証する旨の保証書作成を依頼された者として、保証書の作成に当たり、自称辰男が真に辰男であるか否かについて善良なる管理者の注意をもって十分に調査すべき義務があったにもかかわらず、右義務を怠った。

被告小川は、遅くとも一回目の融資の際に保証書を作成した平成四年九月二日には、自称辰男が実際には辰男ではないことを知っていたのであるから、保証書作成の依頼を断る義務があった。

原告は、被告小川において、登記義務者として登記手続を申請した自称辰男が登記簿上の登記名義人である辰男に間違いない旨の保証書を作成したのを信頼して、自称辰男に対して本件融資をし、これが回収不能となったため一億〇四一〇万円の損害を被った。

したがって、被告小川の右保証書作成行為は、原告に一億〇四一〇万円の損害を被らせた債務不履行に当たる。

(二) 被告らは、司法書士の業務に携わる者として、保証書作成に際し、現に登記義務者として当該登記手続を申請する人物と登記簿上の権利名義人とが同一人であることを確認した上で保証すべき義務があるにもかかわらず、あえてこれを確かめることなく、漫然と、登記義務者として登記手続を申請した自称辰男と登記簿上の権利名義人である辰男とが同一人である旨の保証をした。

原告は、被告小川において、被告村上とともに、登記義務者として登記手続を申請した自称辰男と登記簿上の権利名義人である辰男とが同一人である旨の保証書を自ら作成して登記手続をするとのことであったため、自称辰男が真実辰男に相違ないと誤信した結果、自称辰男に対して本件融資をし、これが回収不能になったため一億〇四一〇万円の損害を被った。

したがって、被告らの右各保証書作成行為は、原告に一億〇四一〇万円の損害を被らせた共同不法行為に当たる。

8  よって、原告は、被告小川に対し債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求として、被告村上に対し不法行為に基づく損害賠償請求として、各自一億〇四一〇万円及びこれに対する本件不法行為の日の翌日である平成四年九月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

(被告小川)

1 請求の原因1の事実は認める。

2(一) 同2(一)の事実は知らない。

(二) 同2(二)の事実は認める。

(三) 同2(三)の事実は否認する。清が本件融資を通じ現実に受領したのは二〇〇万円にすぎない。

3(一) 同3(一)の事実は知らない。

(二) 同3(二)の事実は認める。

(三) 同3(三)の事実は否認する。

4 同4の事実は認める。

5(一) 同5(一)の事実は否認する。

清は、被告小川の事務所に来所していたが、辰男の替え玉はしていない。被告小川の事務所において、登記義務者として登記手続を申請した自称辰男は、原告の下請けの棟梁であり、かねてから借財に苦しんでいた亡黒田眞(以下「黒田」という。)若しくは管尾則幸(以下「管尾」という。)又はそれ以外の第三者であり、清ではなかった。

(二) 同5(二)の事実は認める。

6 同6の主張は争う。

7 同7の主張は争う。

(一) 被告小川が、自称辰男が実際には辰男でないことを知っていたことは強く否認する。

被告小川は、印鑑証明書の印影と保証書作成依頼を含む委任状に押印された印影との同一性を確認しており、その注意義務を尽くしている。

また、辰男は難聴であり、被告小川は、辰男と清とを難聴か否かで区別していたところ、被告小川の事務所において、辰男と称した者は、難聴であったので、辰男本人と判断した。

(二) 原告の代理人である阿部は、平成四年八月当時、辰男所有不動産の現地調査を行った管尾を通じ、清が辰男の替え玉を演じていることに気付いており、そのことは黒田も同様であったが、自らの借財返済に利用しようと考え、黒田と共謀の上、原告をして本件融資を実行させた。

したがって、本件融資は、被告小川の保証書作成以前に融資を実行することが決定されていたものであり、被告小川の保証書作成行為と、原告の損害との間には因果関係がない。

(被告村上)

1 請求の原因1の事実は認める。

2(一) 同2(一)の事実は知らない。

(二) 同2(二)の事実は認める。

(三) 同2(三)の事実は否認する。

3(一) 同3(一)の事実は知らない。

(二) 同3(二)の事実は認める。

(三) 同3(三)の事実は否認する。

4 同4の事実は認める。

5(一) 同5(一)の事実は知らない。

(二) 同5(二)の事実は認める。

6 同6の主張は争う。

7 同7の主張は争う。

(一) 被告村上は、保証書の作成に当たり、登記義務者とされる自称辰男に対して「売主に間違いありませんね。」と尋ね、登記権利者である原告の代理人阿部に対して「全責任を持たれますね。」、「金の受渡しは大丈夫ですね。」と尋ね、いずれからも間違いない旨の確認を得た。

そして、被告村上は、既に被告小川において本人確認を終えていると考えていた上、土地のみの一部の保証でもあり、そもそも保証書による所有権移転登記手続に際しては、右登記に先立って法務局から登記義務者へ通知書が送付され、登記義務者が印鑑証明書と同一の印鑑を押捺して法務局へ返送して初めて登記がされることになっており、登記義務者による事前チエックがされることから、不動産売渡証書、委任状、印鑑証明書等を点検して、保証書に押印したのである。

したがって、被告村上は確認義務を履行しているというべきであり、被告村上に過失は存しない。

(二) 二回目の一億円の融資の担保とされた保呂町土地は、生産緑地に指定された土地であり、その担保価値は約三〇〇〇万円にすぎない。右融資は、自称辰男において名古屋市に対して生産緑地指定の取消の申出をし、右指定が取り消され、保呂町土地が市街化農地となるという条件で行われたものであって、生産緑地のままでは到底一億円もの債権を回収することはできないものであったが、実際には保呂町土地は生産緑地のままである。

したがって、仮に、保呂町土地に有効な根抵当権が設定されたとしても、せいぜい三〇〇〇万円が回収できたにとどまるのであるから、原告の損害はせいぜい三〇〇〇万円にすぎない。

三  抗弁

1  免除

(被告ら)

被告らは、原告の代理人である阿部に対し、本人確認はあくまで原告の責任である旨念を押したところ、阿部はこれを承諾した。

したがって、原告は、被告らに対し、保証書の作成に当たり現に登記義務者として申請する人物と登記簿上の権利名義人とが同一人であることを確認すべき義務を怠ったことに基づく損害賠償責任を免除したというべきである。

2  過失相殺

(被告小川)

仮に、被告小川に責任が認められるとしても、原告にも次のような重大な過失がある。

即ち、融資を行う者としては、現地調査の上、担保物件について適切な評価を行うのが通常であり、原告においても一回目の融資に当たり現地調査を行っていれば、笹原町建物には賃借人が存するため担保不足であることが容易に把握でき、右融資を行わなかったはずであるのに、原告の代理人である阿部は何ら現地調査を行わなかった。

また、自称辰男が辰男本人であるか否かの確認は、先ず原告が行うべきものであり、原告の代理人である阿部が本人確認を適切に行っておれば、自称辰男が替え玉であることが判明し、本件融資を行わなかったはずであるのに、阿部の行った本人確認は非常に杜撰であった。

さらに、原告は、辰男から提起された所有権移転登記等抹消登記手続請求訴訟において、被告小川に対して何ら訴訟告知をせずにその訴訟参加の機会を奪ったまま、辰男から一五〇万円を受け取るのと引換えに所有権移転登記等の抹消登記手続を行うという不利な裁判上の和解をしている。

(被告村上)

仮に、被告村上に責任が認められるとしても、原告にも次のような重大な過失があり、原告の被った損害は、ほとんど原告の責に帰すべきものであるから、九五パーセント以上の割合で過失相殺がされるべきである。

即ち、契約の相手方である自称辰男が辰男本人であるか否かを確認すべき義務は契約当事者である原告にあるところ、原告は、これを怠り、自称辰男が替え玉であることを見抜けずに契約を締結した。少なくとも、原告において、事前にわずかな現地調査さえ行っていれば、自称辰男との間で安易に契約を締結することはなかったはずである。

また、原告は、一億二〇〇〇万円という非常に高額な融資を行っていながら、各不動産の評価が非常に曖昧であり、きちんとした不動産評価を行っていれば、このような高額な融資を行うことはなかったはずである。

加えて、原告は、辰男から提起された所有権移転登記等抹消登記手続請求訴訟において、被告らに対して何ら訴訟告知をせずに被告村上の訴訟参加の機会を奪った上、辰男から一五〇万円を受け取るのと引換えに所有権移転登記等の抹消登記手続を行うという不利な裁判上の和解をしたが、これは、原告の重大な怠慢というほかない。

四  抗弁に対する認否

被告らの抗弁の各主張はいずれも争う。

理由

一  被告らが名古屋法務局昭和出張所管内で司法書士を業として営んでいる者であること(請求の原因1の事実)は、当事者間に争いがない。

二  被告らの不法行為(又は被告小川の債務不履行)について

1  当事者間に争いのない事実、証拠(甲一ないし一八、二一ないし二六、二八ないし三一、三四、三八、乙七、証人阿部宗明、証人前田正守、証人阪野清、証人吉田廣、被告小川本人、被告村上本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一)  本件融資に至る経緯

清と大石は、平成三年一二月一九日、清が辰男になりすまし、辰男所有の笹原町土地に極度額七〇〇〇万円の根抵当権設定仮登記を付けることにより、カラオケ店希林を営む高橋重徳(以下「希林の高橋」という。)から三五〇〇万円の貸付けを受けた。ところが、平成四年一月中旬ころ、右貸付けを仲介した吉田廣(以下「吉田」という。)に、貸付けを受けた自称辰男が清の替え玉であったことが発覚してしまい、吉田から強く返済を求められたため、清と大石は、返済を約束し、その保証として同月二四日受付で保呂町土地に吉田を権利者とする所有権移転請求権仮登記を付けることで吉田の了解を得たものの、その返済に窮し、同年八月ころ、再び、清が辰男になりすまし、辰男所有の不動産を担保に入れることにして原告から貸金名下に金員を騙取し、右金員で高橋からの貸付けを返済しようと企て、黒田を通じ原告との接触をはかった。

各種建設用材の販売及びその施工等を業とする株式会社である原告の代表取締役である高橋育宏(以下「高橋社長」という。)は、平成四年八月末ころ、下請けの棟梁として二、三年取引のあった黒田から、「私の知っている人にお金で困っている人がいる。短期間だから土地を担保にお金を貸してあげてもらえないか。」と、保呂町土地を担保に一億円を融資する話を持ち掛けられたため、当時株式会社富士ハウスで取引主任を務め不動産金融の経験のある知人の阿部に相談したところ、阿部の調査により、保呂町土地が生産緑地に指定された土地であって、三〇年間は農地のままにしておかねばならず、担保価値がないことが判明した。

そこで、高橋社長は、黒田に対し、右融資話をいったんは断ったが、黒田から他の不動産を担保に入れるから頼むと再度打診され、借主と会うこととなった。

同月二日、黒田は、清(自称辰男)、大石及び管尾を連れて原告事務所を訪れ、高橋社長は、阿部とともに、社長室で黒田らと面談した。

阿部は黒田らとは初対面であり、高橋社長も黒田以外とは初対面であったところ、黒田は、清(自称辰男)が地主の辰男であると、また、大石及び管尾は清(自称辰男)の知人であり、付き添いであると紹介した。

黒田らは、辰男の弟である清がギャンブルで一億円近い借金を負い、取立てが厳しく返済に追われているので、原告から融資を受けて返済し、急場をしのぎたいと説明し、清(自称辰男)は、笹原町土地を担保として提供したいとして、持参した笹原町土地の不動産登記簿謄本を示した(登記済証は紛失したとのことであった。)。

高橋社長は、不動産の調査、貸付け、担保設定等の手続一切を阿部に一任し、阿部は、清(自称辰男)との間で、原告において、辰男から笹原町物件をいったん買い取る形で二〇〇〇万円を融資する方向で話を進めることとしたが、これは、笹原町物件について、処分を前提とした価格を合計七〇〇〇万円と評価し、先順位担保の被担保債権額合計五〇〇〇万円(内訳は、天白信用農業協同組合の債権額が一五〇〇万円、希林の高橋の債権額が三五〇〇万円)を差し引くと、二〇〇〇万円の担保価値があると査定したためであった。なお、阿部は、笹原町物件の現地確認を行っておらず、実際には、笹原町建物には、賃借人がいたため、右評価が適切であったか否かには疑問があった。

阿部は、右話合いの際、清(自称辰男)が持参した実印(前田正守が偽造したものであった。)と印鑑証明書の印影とを照合するとともに、地主であると自己紹介した清(自称辰男)に対し、その職業を尋ねたところ、清(自称辰男)が農業をやっており花を作っていると答えたので、運転免許証の有無を尋ねると、運転免許証は持っていないというので、さらに「車の運転もできないのに、どうやって花を売るのだ。」と尋ねたが、大石が、自分が花屋をやっていて自分の方が取りに行くと間に入り、また、黒田が清(自称辰男)の身元については自分が全面的に保証する旨述べたので、それ以上、清(自称辰男)の身元について追及するのを止めた。

そこで、笹原町物件について所有権移転登記手続を行うこととなったが、笹原町土地については登記済証がないとのことであり、保証書で登記を行わなければならないところ、清(自称辰男)及び大石から、笹原町物件を管轄する登記所である名古屋法務局昭和出張所管内の司法書士であり、知り合いである被告小川に、保証書の作成を含めた登記手続を依頼したいとの提案があり、阿部には右管内の司法書士に知り合いがいなかったため、阿部も右提案に応じることとした。

(二)  一回目の融資における保証書作成の経緯

阿部は、平成四年九月二日、原告社長室での面談後、清(自称辰男)及び大石とともに、被告小川の事務所を訪れ、原告の代理人として、笹原町土地についての所有権移転登記申請、原告とともに右登記申請を依頼した自称辰男が登記義務者として人違いでない旨の保証書の作成、笹原町建物についての保存登記申請及び所有権移転登記申請の各手続を依頼し、被告小川は、右依頼を引き受けた。

被告小川は、保証書の作成に当たっては、辰男の替え玉として振る舞っていた清から提示された印鑑証明書に記載された辰男の年齢等と清(自称辰男)のそれとが大体一致していたことや、貸主側である阿部が同席していたことで、清(自称辰男)が辰男本人に間違いないと考え、それ以上、清(自称辰男)に対し、身分証明書の提示を求めることなどはしなかった。

また、被告小川は、当時、権利に関する登記の申請に当たっては、当該登記所において登記を受けた成年者二人以上による保証書二通を提出しなければならなかったため、被告村上に、自称辰男が登記義務者として人違いでない旨の保証書の作成を依頼した。被告村上は、右依頼を受け、被告小川の事務所を訪れたが、被告小川によって本人確認が十分にできていると考えていたので、清(自称辰男)に「あなた売主に間違いないですね。」と尋ね、清(自称辰男)から間違いがないと返答を得たのみで、それ以上の確認はしなかった。

その後、阿部は、被告小川の指示に従い、順次、委任状、原因証書たる不動産売渡証書に、原告の代理人として、原告代表者名義の署名押印を行い、清(自称辰男)もまた、辰男の署名押印を行った(なお、不動産売渡証書の辰男の署名押印は大石が行った。)。

阿部は、右書類が作成できたことにより、有効な所有権移転登記がされるものと考え、融資を実行することとし、被告小川の事務所において、貸付金二〇〇〇万円から、予め金利分として二四〇万円、自らの手数料として六〇万円を差し引いた残金一七〇〇万円を清(自称辰男)に交付した。

被告小川は、笹原町建物について、平成四年九月七日付けで辰男名義の保存登記申請手続を行い、その旨の登記を経由させた上で、同月九日付けで、同月二日付け売買を原因とする、辰男から原告への所有権移転登記申請手続を行い、また、笹原町土地については、被告小川及び同村上名義の保証書を用いて同月七日付けで仮受付を経、清(自称辰男)が持参した同月八日付けで名古屋法務局昭和出張所登記官から辰男あてにされた笹原町土地に係る所有権移転登記申請がされていることを確認する旨の葉書を提出して、同月九日付けで、同月二日売買を原因とする辰男から原告への所有権移転登記申請手続を行い、いずれもその旨の登記を経由させた。

(三)  二回目の融資における保証書作成の経緯

原告は、平成四年九月二日に高橋社長と阿部が、清(自称辰男)らと面談した際、清(自称辰男)から、保呂町土地について生産緑地から市街化農地に申請替えするので、保呂町土地を担保にさらに一億円を貸してほしい旨の申込みを受けていたが、阿部は、一回目の融資が順調に行ったことや、当時、生産緑地指定の見直し時期で、地主からの申出があれば生産緑地指定の取消をすることができ、保呂町土地は、現状のままではおよそ三〇〇〇万円程度の価額にすぎないが、市街化農地となれば一億円程度の価額となるから、十分に担保価値があると考えて、右申込みを受け入れることとした。

阿部は、二回目の融資に当たっては、保呂町土地を市街化農地へ変更すること及び融資金で希林の高橋からの借入金を返済し、笹原町土地に設定された根抵当権設定仮登記を抹消することを条件とすることとし、同月八日、原告事務所において、清(自称辰男)、大石及び黒田と、高橋社長とともに面談した際、右条件を提示したところ、清(自称辰男)はこれを承諾したので、一億円の融資に応じることとした。

原告は、保呂町土地について、根抵当権者を原告、債務者を辰男、極度額を一億二〇〇〇万円、債権の範囲を証書貸付取引とする根抵当権及び条件付所有権移転仮登記を設定することとし、同日、阿部において、清(自称辰男)及び大石とともに、被告小川の事務所を訪れ、被告小川に対し、右根抵当権設定登記等の登記手続を依頼した。

清(自称辰男)は、保呂町土地についても登記済証がないということであったので、阿部は、前回同様、被告小川に対し、登記手続を申請した清(自称辰男)が登記義務者として人違いでない旨の保証書の作成を依頼し、被告小川は、これを引き受け、根抵当権設定登記等の登記手続に必要な書類を作成した。

阿部は、同月七日付けで笹原町建物の所有権保存登記の受付及び笹原町土地の所有権移転登記の仮受付がされており、それまでの登記手続について事故があったという報告が被告小川からなかったことや、今回も、被告小川が保証書の作成を引き受けてくれ、抵当権設定に必要な書類が完備したとの報告を受けたことから、有効に根抵当権設定登記等がなされると思い込み、被告小川の事務所において、清(自称辰男)に対し、貸付金一億円から予め希林の高橋に対する返済金三五〇〇万円、金利分一二〇〇万円、自らの手数料三〇〇万円を差し引いた五〇〇〇万円を交付した。

阿部は、その足で、清(自称辰男)及び大石とともに、希林の高橋を訪ね、希林の高橋に対する清(自称辰男)の借入金三五〇〇万円を返済し、希林の高橋から笹原町土地に係る根抵当権設定仮登記の抹消登記手続書類に署名押印を得た。阿部が貸付金の残金三五〇〇万円を右高橋へ返済したことにより、原告が三五〇〇万円を清(自称辰男)に貸し付けた形になった。

その後、被告小川は、同月九日付けで、笹原町土地に係る希林の高橋を権利者とする根抵当権設定仮登記の抹消登記の申請手続をするとともに、被告村上に保証書作成を依頼した。

被告村上は、被告小川から、笹原町土地の所有権移転登記手続が完了した旨を聞いたので、間違いないだろうと考え、清(自称辰男)や原告には何らの確認もしなかった。

被告小川は、保呂町土地について、被告小川及び同村上名義の同月一四日付け保証書を用い、同日付けで、根抵当権設定登記及び条件付所有権移転仮登記を経由させた。

(四)その後の経過

その後、本件各登記は、清が大石らと共謀して、辰男になりすまし、辰男の実印を偽造するなどし自称辰男として同人の氏名を冒用してしたものであることが判明し、辰男から原告に対し、本件各登記が自己の意思によらずにされたものであることを理由として、その抹消登記手続請求訴訟が名古屋地方裁判所に提起され(同裁判所平成六年(ワ)第一七〇〇号事件、以下「別件民事訴訟」という。)、平成八年一二月二日、辰男と原告との間で、原告が解決金一五〇万円を受け取るのと引換えに前記各登記を抹消する旨の和解が成立し、同月六日、前記各登記はいずれも抹消された。

一方、清には全く資力がなかったため、原告は、本件融資に係る貸付金を回収することが事実上不可能となった。

以上の事実が認められる。

2  なお、被告小川は、本件融資を通じ清が実際に受領した額は二〇〇万円にすぎないとして、清に対する本件融資の事実を否認するが、本件融資は担保不動産である笹原町物件及び保呂町土地の所有者である辰男に対する貸付けとして、辰男の替え玉として振る舞った清に対して貸付金が交付されたものであるから、仮に、清が最終的に受領した額が二〇〇万円にすぎないとしても、同額は清及び大石ら共謀者内部での分配の問題にすぎず、前記認定事実を左右するものではない。

また、被告小川は、清は、被告小川の事務所に来所していたが、辰男の替え玉を演じてはおらず、被告小川の事務所において、辰男と称していた者は、黒田若しくは管尾又はそれ以外の第三者であり、清ではなかった旨主張し、被告小川も右主張に沿う供述をする。

しかしながら、被告小川は、一方において、本件融資に係る詐欺事件(以下「別件刑事訴訟」という。」の捜査段階における警察の事情聴取(平成七年二月一日)においては、清を顔写真で確認した上で、希林の高橋のための根抵当権設定仮登記申請を始めとして五回にわたり、清が辰男を装って登記申請の依頼に来たが、必ず大石を同道していたほか、数名が一緒に付いて来ていた旨を供述している(甲三一)。ところが、被告小川は、別件民事訴訟において証人として出廷した際(同年九月八日)には、平成二年ころから、辰男と清の双方に会っており、辰男は耳が不自由であったため二人の区別はついたと供述しながら、平成四年九月二日ころの笹原町物件登記の申請手続の際に来所したのは、辰男であると供述したり、辰男と清が来たと思うと供述したり、辰男が来ていたかどうか定かではないし、清が来ていたかどうかも記憶がないと供述するなどしている(甲一二)。さらに、被告小川は、別件刑事訴訟の証人として出廷した際(平成八年三月二五日)には、法廷に被告人として在廷していた清を示されて、辰男であると思っていたと供述し、本件各登記の申請手続のために来所したのは辰男だと思っていたと供述している(甲三四、証人前田正守)。そして、被告小川は、本件の本人尋問において、平成三年一二月の希林の高橋のための根抵当権設定仮登記の登記手続及び平成四年一月の吉田のための所有権移転請求権仮登記の登記手続のために来所したのは、辰男を装った清であったが、同年九月の本件各登記手続の際には、いずれも清とは別人の辰男を装った者が清とともに来所したと供述する上、別件刑事訴訟の証人として出廷した際の供述は勘違いしていたかもしれないと供述している。

以上の被告小川の供述は、およそ一貫性が認められないばかりか、黒田及び管尾はいずれも四〇歳代で、清よりも年若く(証人前田正守)、同人らが辰男の替え玉を演じることは事実上不可能であると考えられる上、辰男本人と比較的年の近い前田も、別件刑事訴訟において、辰男名義の実印を偽造し、これを大石らに渡したとして、詐欺幇助、有印私文書偽造幇助、偽造有印私文書行使幇助の罪名で有罪判決を受けたのみであって、辰男の替え玉を演じたことはない旨供述していることに照らすと、被告小川の事務所に清と清以外の第三者が来所し、清以外の第三者が辰男の替え玉を演じた旨の被告小川の供述は到底信用することはできず、他に、清以外の第三者が辰男の替え玉を演じたことを認めるに足りる証拠はない。

3  ところで、不動産登記法第四四条は、登記義務者の権利に関する登記済証が滅失した場合において、登記済証に代え、登記を受けた成年者(平成五年法律第二二号による改正前は、その登記所において登記を受けた成年者)二人以上が登記義務者に人違いがないことを保証した書面である保証書を登記申請書に添付すべきことを要するとしている。これは、それを添付させることによって登記義務者の真意に出た登記申請であることを事前に担保しようとした登記済証が紛失した場合においても、権利に関する登記手続を可能とする一方、現に登記義務者として登記申請をする者と登記簿上の権利名義人とが同一人であることにつき確実な知識を有する者による保証書を添付させることによって登記義務者の真意に出た登記申請であることを担保し、不正な登記がされることを防止することにその趣旨があり、同法は、「登記義務者ニ付キ確実ナル知識ヲ有セザルニ拘ワラズ第四十四条ノ規定ニ因ル保証ヲ為シタル者」について一年以下の懲役又は五〇万円以下の罰金という刑罰を科す(同法一五八条)ことで右趣旨を担保しようとしている。

したがって、登記義務者に人違いがないことの保証をしようとする者は、現に登記義務者として登記申請をする者と登記簿上の権利名義人とが同一人であることにつき確実な知識を有していることが必要であり、既に登記簿上の登記義務者本人と面識があり、現に登記義務者として登記申請をする者と登記簿上の権利名義人とが同一人であることが確実に確認できるか、そうでない場合には、現に登記義務者として登記申請をする者と登記簿上の権利名義人とが同一人であることが確実に確認できる状態に達するまで善良な管理者の注意をもって十分な調査を行った上で、登記義務者に人違いがないことの保証をしなければならず、現に登記義務者として登記申請をする者と登記簿上の権利名義人とが同一人であることが確実に確認できる状態に達し得ないのであれば、右保証を避止しなければならない義務を負担しているというべきであって、登記義務者に人違いがないことの保証をした者がこれを怠ったために誤った登記がされ、そのために損害を被った者があるときは、右保証をした者は、損害を被った者が保証を委任した者であるときは委任契約上の債務の不完全履行又は不法行為により、それ以外の者であるときは不法行為により、この者に対し被った損害を賠償する義務を負うと解するべきである。登記義務者に人違いがないことの保証をする者が負うこの損害賠償義務は、司法書士が登記申請手続の委任を受けるのに付帯して右保証をすることを引き受ける場合でも同様である。

4  これに対し、被告らは、原告の代理人である阿部に対し、本人確認はあくまで原告の責任である旨念を押したところ、阿部はこれを承諾したから、原告は、被告らに対し、保証書の作成に当たり現に登記義務者として申請する人物と登記簿上の権利名義人とが同一人であることを確認すべき義務を怠ったことに基づく損害賠償責任を免除したというべきであると主張し、被告村上は、本人尋問において、保証書の作成に当たり、阿部に対し「全責任を持たれますね。」と尋ね、阿部からその旨承諾を得た旨の供述をする。

しかしながら、保証書は、登記済証に代え、それを添付させることによって登記義務者の真意に出た登記申請であることを事前に担保し、もって不正な登記がされることを防止しようとするためのものであることは既に説示したとおりであるから、仮に、このようなやり取りがされたとしても、それだけでは被告らの責任を免責する事情とはなり得ないと解するのが相当であるばかりか、阿部の反対趣旨の供述に照らすと、いまだ右事実を認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

5  そこで、被告らが、保証書を作成するに当たり、登記義務者に人違いがないことにつき調査義務を尽くしたか否かを検討する。

(一)  被告小川について

前記認定事実のとおり、被告小川は、保証書を作成するに当たり、辰男の替え玉として振る舞っていた清から提示された印鑑証明書に記載された辰男の年齢等と清(自称辰男)のそれとが大体一致していることを確認したのみで、身分証明書での本人確認を行うなどそれ以上の本人確認を何ら行っておらず、現に登記義務者として登記申請をする者と登記簿上の権利名義人とが同一人であることが確実に確認できる手段を尽くしたとは到底認められない。

したがって、被告小川は、登記義務者に人違いがないことの保証をする者として果たすべき善良な管理者の注意義務を怠ったことは明らかである。

この点、原告は、被告小川は、遅くとも一回目の融資の際に保証書を作成した平成四年九月二日には清(自称辰男)が辰男本人ではないことを知っていたのであるから、右保証書作成の依頼を断る義務があったとして、被告小川が、登記義務者として登記申請をした清(自称辰男)が登記簿上の権利名義人ではないことについて悪意であった旨主張する。

確かに、被告小川は、原告に対する本件各登記手続の受任以前に、希林の高橋が三五〇〇万円の貸付けの担保として設定した笹原町土地に係る根抵当権設定仮登記手続、右貸付けを仲介した吉田に対する保呂町土地に係る所有権移転請求権仮登記手続を受任しており、笹原町土地に係る希林の高橋に対する根抵当権設定仮登記手続の受任の際には、清が辰男の替え玉を演じていたと認められるところ、その本人尋問において、平成四年八月の終わりまでに、大石から希林の高橋に対する根抵当権設定仮登記手続の受任の際には、清が辰男の替え玉を演じていたと聞いた旨供述するが、前示した被告小川の供述の変遷等に鑑みるならば、原告に対する本件各登記手続を受任する際、被告小川において、清と辰男とを区別できたとは考え難い。司法書士の行う保証書作成において本人確認の瑕疵があれば、後に損害賠償を請求されるおそれがあることは十分予測がつくところ、本人でないことを明確に知りながら虚偽の保証書を作成するためには相応の動機が必要と考えられるが、保証書作成の手数料は約二万円程度にすぎず(被告村上本人)、被告小川が右以上の額を手数料として受領したことを認めるに足りる証拠はなく、また、被告小川が大石らと当初から共謀しており、原告から騙取した金員が被告小川に渡されている事実を認めるに足りる証拠もない本件において、被告小川には故意で虚偽の保証書を作成するだけの動機がないというべきであり、加えて、大石から清が辰男の替え玉を演じていたと聞いた旨の右供述も、極めて曖昧であり、かつ、原告に対する本件各登記手続を受任する際、清以外の第三者が来所し、その第三者が辰男の替え玉を演じていた旨の虚偽の供述をしてしまい、それ以前の登記手続の際には清が辰男本人として来所していたとの供述との矛盾をつかれたため、場当たり的にした供述とも解され、およそ信用することができない。

なお、吉田は、証人尋問並びにその作成の陳述書(甲三三)及び別件刑事訴訟の捜査段階における警察の事情聴取(甲二一)において、保呂町土地について所有権移転請求権仮登記申請手続を被告小川に委任した際、被告小川に対し、希林の高橋に対する笹原町土地に係る根抵当権設定仮登記の際、登記義務者として登記手続を申請した者が辰男本人ではなかった旨抗議したとの供述等をするが、吉田は、右抗議した際にも、辰男本人でなく、その替え玉である清を同道して、保呂町土地に係る所有権移転仮登記申請手続を委任したというのであるから、吉田が右のような抗議をすることは、自ら委任しようとする手続も替え玉によるものであることを指摘するに等しく、このような抗議があれば、被告小川においてこれに応じるはずもないことは容易に推測できるから、吉田の右供述等は不合理というべきであって、直ちに信用することはできない。

したがって、被告小川が清(自称辰男)が辰男本人ではないことを知っていたとの原告の主張は採用できない。

(二)  被告村上について

被告村上は、前記認定事実のとおり、一回目の融資時に保証書を作成した際も、清(自称辰男)に「あなた売主に間違いないですね。」と尋ね、清(自称辰男)から間違いがないと返答を得たのみで、それ以上の本人確認をしておらず、二回目の融資時に保証書を作成した際には、清(自称辰男)に会うことすらしておらず、何らの確認もしていない。

以上によれば、被告村上が、登記義務者に人違いがないことの保証をする者として果たすべき善良な管理者の注意義務を怠ったことは明らかである。

6  因果関係及び損害について

被告らが、登記義務者として登記手続を申請した清(自称辰男)が登記簿上の権利名義人である辰男に間違いない旨の保証書を作成しなければ、本件各登記手続が行われず、原告も本件融資を行わなかったであろうことは明らかであるから、被告らの誤った保証書作成行為により、原告は本件融資の実行として、清(自称辰男)に対して一億〇二〇〇万円(貸付金額一億二〇〇〇万円から予め差し引かれた利息合計一四四〇万円及び手数料三六〇万円を控除した額)を交付し、同額の損害を被ったということができ、被告らによる保証書作成行為と原告の損害とは相当因果関係があるといえる。

この点、被告小川は、本件融資は清が辰男の替え玉を演じていることに気付きながら自らの借財返済に利用しようと考えた阿部及び黒田が共謀の上実行させたものであって、被告小川が保証書を作成する以前に、本件融資を行う旨の決定がされており、被告小川による保証書作成と原告の損害との間に因果関係がない旨主張するが、清が辰男の替え玉を演じていることを阿部が気付いていたことを窺わせるに足る証拠も、阿部と黒田の共謀を窺わせるに足る証拠もなく、被告小川の主張には理由がない。

また、被告村上は、保呂町土地の担保価値はせいぜい三〇〇〇万円であり、仮に、有効な根抵当権が設定されたとしても、せいぜい三〇〇〇万円が回収できたにとどまるから、原告の損害はせいぜい三〇〇〇万円にすぎない旨主張するが、前記認定のとおり、本件各登記手続が行われなければ、原告が本件融資の実行として清に一億〇二〇〇万円を交付することはなかったことは明らかであるから、右担保価値の評価が過失相殺の事情となることは別論として、被告村上の主張には理由がない。

三  過失相殺について

以上によると、被告らが、本件各土地登記手続に際し、登記義務者に人違いがないことの保証をした行為には過失があり、被告らが右保証をした行為と原告の本件融資の実行としての金員の交付による損害との間には相当因果関係が認められるので、被告らは原告に対し不法行為による損害賠償義務を免れない(被告小川は、債務不履行に基づく損害賠償義務も負う。)。

しかしながら、本件各土地登記は、本件融資の担保としてされた所有権移転及び根抵当権設定を公示するための手段にすぎず、右所有権移転や根抵当権設定に際し、借主として振る舞っている清(自称辰男)が名義人である辰男本人であるのか否か、担保設定が名義人である辰男本人の意思に基づくか否かを確認するのは、本来、貸主である原告の責務であるというべきところ、前記認定事実のとおり、原告は、本件融資に関する不動産の調査、貸付け、担保設定等の手続一切を阿部に一任していた上、一任された阿部は、取引主任者として不動産取引の知識も経験もあり、また、不動産金融の経験もあったにもかかわらず、本件融資が、辰男の弟である清がギヤンブルで負った一億円近い借金の取立てが厳しく返済に負われているので、原告から融資を受けて返済し、急場をしのぎたいというものであって、性急かつ高額な借入れの申込みであり、また、極めて高利の貸付けを受忍するというものであるから、本件融資をなすに当たっては、その本人確認は慎重を期すべきところ、阿部は、清(自称辰男)が持参した実印(前田正守が偽造したもの)と印鑑証明書の印影とを照合し、運転免許証の提示を求めてはいるものの、運転免許証を持っていないと言われ、身分証明書による確認を怠ったままで、それ以上の本人確認を行っていないというのであるから、原告には、本人確認に関し重大な過失があるといわざるを得ず、加えて、笹原町物件の現地調査を行っておらず、笹原町建物には、賃借人がいたため、処分を前提として二〇〇〇万円の担保価値があるという評価が適切であったか否かに疑問が残るところであり、また、保呂町土地については、生産緑地から市街化農地への変更が行われて初めて、貸付額相当の価額となるとし、右変更を二回目の融資の条件としながら、右変更が確実にされることを確認もせずに融資を実行しているのであって、その融資手続は、杜撰といわざるを得ない。してみると、原告は、不動産を担保に高額な貸付けをなすに当たり、詐欺的取引を防止するための方策を怠った重大な過失があり、この点の原告の過失が自らの損害を生ぜしめた主要因であるとみることができるから、原告の過失割合は八五パーセントとするのが相当である。

したがって、原告の過失を相殺した上で被告らが原告に賠償すべき損害額は、一億〇二〇〇万円の一五パーセントである一五三〇万円となり、また、原告が別件民事訴訟の和解金として一五〇万円の支払を受けたことは当事者間に争いがないから、被告らが原告に賠償すべき損害額は右一五〇万円を控除した一三八〇万円となる。

四  結語

以上によれば、原告の本訴請求については、被告らに対し、各自一三八〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成四年九月一五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用につき民訴法六一条、六四条本文、六五条一項本文を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 筏津順子 裁判官 鈴木正弘 裁判官 松井洋)

物件目録

一 所在 名古屋市天白区笹原町

地番 三〇八番

地目 宅地

地積 三四〇・〇六平方メートル

二 所在 名古屋市天白区笹原町三〇八番地

家屋番号 三〇八番

種類 倉庫

構造 鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建

床面積 一九六・六〇平方メートル

三 所在 名古屋市天白区保呂町

地番 三〇二番

地目 畑

地積 七三一平方メートル

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